Quod Erat Demonstrandum(Q.E.D.)

 証明完了。

 さて、先のエントリの続き。

 土屋先生の言う

何しろ、彼らと彼女たちは、戦前の無産党(共産党)山本宣治の思想を学ぼうと言っている。その思想とは、以前にも書いたが、【婦人は昼は家事を行い、夜は性行為を伴う「奴隷」だ】と言っている。

読者の皆さん!あなたの奥さんは「奴隷でしょうか」

戦前のコミンテルンの指示は、日本の土台である、「家庭の破壊」である。

と、

  • ご家庭の婦人を性奴隷のように言っている。家庭否定論者だ。
  • その「思想を学ぼう」と言っているのが、過激性教育をすすめる集団だと言うことはハッキリ認識しなければならない。
  • 戦前のコミンテルンとつるんでる

という思想を持ってるとして、これに断固対抗せにゃ成らぬ、と述べている。

 さあて、実際はどうかな?。この文は何とか探し出すことが出来た。
 初出は、『改造』1923年新年号に掲載された「結婚 三角関係 離婚 −一青年生物学者の考へ−」。
 ただし、底本は、『山本宣治全集 第3巻 産児調節評論・性と社会』汐文社(1979.4)とする。
(よって、引用につかったページについては、底本のそれを用いる。)

 では。先ずは土屋先生の噛みついた文を。

現在日本における多数の結婚生活は、私のみるところでは、私有財産制の一変形であり、夫という占有者が、妻と名づける家畜を養い、これを性的快感を得るための機械として用い、また同時に、これを屠らずに食物とする場所である(非科学的庖厨生活のうちに妻の血肉をそぐことは、とりもなおさず彼女を食うことになる)。

 妻を機械から昇格させて奴隷だとすれば、結婚生活は、夫と称する主人が、妻と称する奴隷を飼い、この奴隷をして昼は家事を処理せしめ、夜は寝室の世話をさせることであり、疑うべくもない一の奴隷制である。(P136−137)

 そう。京都労働者学習協議会?学習通信?061005の孫引きのとおり。

 ところが、この文章は「現在の結婚制度」とサブタイトルが打たれ(念のために書くが、この文のいう現在は、1923年。)この前段にはこう書いてある。

 一体こんないろいろ不届きな見方が生じるのは、此世間の我々の眼前に存する多くの家庭生活が不届きなものであるからなのだ。不届きなものを見て不届きな解釈を下しても当然で、別段当方が不届きだと、おしかりを受くべき理由はないはずである。

 私は之迄かくあすべき結婚生活の諸要件を考える許りで、目前の結婚生活の実情はあまり云わなかった。併し乍ら今此所に其れに評価を加えなければならぬ。(P136)

 この前の文では、男性は女性を「一般に女性を内心物品や器械視している。即ち妻は彼にとって字引であり、それ以外の女性は小説、詩集などの興味本位の読み物と見なしている(P148)」とあり、それに続いての文章である。

 さて。この文章の頭のほうにはこんな文が。

(両性は質の違いであり量の差ではない、即ち男女に優劣はない)
 所で本来優劣がないのだから、今迄の様に征服者対奴隷、或いは主人対下女、或いは飼い主対家畜のごとき一種の強迫的主従関係は、之迄女性をなみした<軽蔑して無視すること>男性文化の中においてこそ存立はしたが、将来解放されるべき全人間の社会においては全然不合理のものであり、追って自然消滅をなすべき運命を有するもの見る外はない。斯様にして将来の結婚においては、先ず第一に結婚当事者が互いになくてはならぬ一半であることを自覚しなければならぬ。即ち結婚の一用件として壮語の同格性承認がある。(P117)

  • 山本宣治氏のいう【婦人は昼は家事を行い、夜は性行為を伴う「奴隷」だ】は、山本氏の思想ではなく、この文の書かれた当時の「結婚」「女性観」が如何にゆがんでるかを皮肉るために述べたものである。
  • 配偶者を「奴隷」などと言うような、一種の強迫的主従関係は「全然不合理のものであり」としている。
  • つまり、土屋議員の紹介する文章は、全体を見ていない不完全な引用である。
  • もちろん、どのように論点を組み立てるかは思想信条の自由がある以上かまわないが、こんな立脚点のねつ造と勘違いの上に立っている思想を嘲笑する自由も、また存在するし、ワタシも当然のように嘲笑する。

 Q.E.D.
 
 んで、ここからは想像になるが、土屋議員がかような紹介をするに至った理由として、アンチジェンフリの論壇の人が山本宣治氏の
「両性は質の違いであり量の差ではない、即ち男女に優劣はない」
を質に違いがあるんだー、と読み違えて攻撃を仕掛け、その過程でこの記事を読んだのではないか、と。

 そして、共産党コミンテルンと結びつけて、アンチジェンフリとの同時攻撃をかけたことになる。(そして其れは、少なくても件の養護学校の事件については成功している。)かくして、これって陰謀だわ、なんだかわからないけど陰謀だ、大陰謀だ!という号令となる…。

 山本宣治氏に取ってはいい迷惑である。この後山本議員は、治安維持法に対立し、あげく右翼に殺害されてしまったそうだけど、このセンセイは…やっぱり「○○まみれの手で顔をヌルってされ」たほうがよろしいのではないかと。